はじめに

こんにちは。松原市・河内天美駅の医療法人櫻陽会 たなか歯科クリニックです。

歩き始めの時期や、元気に走り回る年齢のお子様によくあるケガの一つに「転んで口をぶつける」というものがあります。中でも、上の前歯をぶつけた際に、上唇をめくったところにある「スジ(筋)」が切れてしまい、口からたくさんの血が出て大パニックになってしまうケースは非常に多く見られます。

「血がポタポタ落ちて止まらない!」「縫わないといけないの!?」と、慌てて当院へ駆け込んでこられる親御さんも少なくありません。

今回は、上の前歯の間の筋(上唇小帯)を切ってしまった時の正しい止血方法と、ご家庭で気をつけるべきポイント、そして歯医者を受診する目安について詳しく解説します。


「上唇小帯(じょうしんしょうたい)」とは?

そもそも、切れてしまった「上の前歯の間の筋」とは何なのでしょうか。これは専門用語で「上唇小帯(じょうしんしょうたい)」と呼ばれる、上唇と歯茎をつないでいる粘膜のヒダのことです。

大人になるにつれてこの筋の付着位置は上の方へ移動していくのが一般的ですが、1〜3歳頃の小さなお子様は、この筋が前歯のすぐ近くまで長く伸びていることがよくあります。そのため、転んで顔から床にぶつかったり、おもちゃに顔をぶつけたりした時に、上唇が強く引っ張られてこの筋が「プチッ」と切け(裂け)てしまう事故が非常に起こりやすいのです。


血がたくさん出る理由と、まず親御さんがすべきこと

口を切った時、親御さんが一番驚くのはその「出血量」だと思います。口の周りや粘膜には無数の毛細血管が通っているため、少し切れただけでも血が出やすい場所です。さらに、出た血が「唾液(つば)」と混ざることで、実際の出血量よりも何倍も多く血が出ているように見えてしまいます。

お子様が口の周りを血だらけにして泣いていると動揺してしまいますが、まずは親御さんが深呼吸をして落ち着くことが最も大切です。親御さんがパニックになると、お子様は余計に不安になって大泣きしてしまい、血圧が上がってさらに血が止まりにくくなるという悪循環に陥ってしまいます。

「大丈夫だよ、すぐに痛くなくなるからね」と優しく抱きしめて声をかけ、お子様を安心させてあげてください。


正しい止血方法(圧迫止血)

お子様が少し落ち着いたら、以下の手順で「圧迫止血(あっぱくしけつ)」を行います。

  1. 傷口を確認する まずは清潔なガーゼやティッシュで、口の周りの血や唾液を優しく拭き取ります。上唇をそっとめくり、本当に「上唇小帯(スジ)」が切れているのか、歯茎や唇そのものが深く切れていないかを確認します。
  2. ガーゼで傷口を圧迫する(最重要) 出血しているスジの部分に、清潔なガーゼ(なければ清潔なハンカチやティッシュ)を丸めて当てます。そして、上唇の上から親指と人差し指で挟むようにして、「傷口を歯茎の骨に押し付けるようなイメージ」でギュッと圧迫します。
  3. 5分〜10分間、そのまま押さえ続ける ここが一番のポイントです。血が止まったか気になって数秒ごとにガーゼを離して見てしまう方がいますが、これをするとかさぶたができず、いつまでも血が止まりません。時計を見ながら、最低でも5分間、できれば10分間はしっかりと押さえたままにしてください。

通常の上唇小帯の切れであれば、この「圧迫止血」を正しく行えば、ほとんどのケースで血は止まるか、じわじわと滲む程度に落ち着きます。


止血中の「NG行動」

血を早く止めようとして、ついやってしまいがちなNG行動があります。

× NG行動1:激しくうがいをさせる
血の味が気持ち悪いだろうと、何度も強いうがいをさせてしまうと、せっかくできかけた「血の塊(かさぶた)」が洗い流されてしまい、再び出血してしまいます。うがいをさせる場合は、血が止まった後に軽くゆすぐ程度にしましょう。

× NG行動2:傷口を指で触る
バイ菌が入って化膿する原因になります。絶対に素手で傷口を触らないでください。

× NG行動3:すぐに寝かせる
血が口の中に溜まった状態で仰向けに寝かせると、血液を飲み込んでしまい、後で気持ち悪くなって吐いてしまうことがあります。止血中は、なるべく上体を起こした状態(抱っこなど)で行ってください。


血が止まった後の注意点と、歯医者を受診するタイミング

血が止まった後も、傷口はデリケートな状態です。以下の点に注意して過ごしましょう。

  • 当日の食事:熱いもの、辛いもの、酸っぱいもの(オレンジジュースなど)は傷口に染みて痛むため避けてください。うどんやおかゆ、ゼリーなど、柔らかくて刺激の少ない冷まし気味の食事がおすすめです。
  • 歯みがき:傷口の周り(上の前歯)は、2〜3日は歯ブラシを当てないようにしてください。痛がって歯みがき嫌いになってしまうのを防ぐためです。うがい薬や水で優しくゆすぐだけで構いません。

【すぐに歯医者を受診すべきケース】

  • 15分以上しっかり圧迫止血をしても、血がポタポタと出続ける場合
  • 上唇のヒダだけでなく、唇そのものまで大きくパックリと切れている場合(縫合が必要な可能性があります)
  • 上の前歯がグラグラしている、欠けている、位置がズレている場合

特に「歯へのダメージ」は要注意です。スジが切れただけでなく、歯を強く打って根っこが折れていたり、神経がダメージを受けていたりすることがあります。血が止まったとしても、念のため後日歯科医院でレントゲンを撮り、歯に異常がないか確認することをおすすめします。


実は「切れてラッキー」なこともある!?

親御さんにとってはショックな出来事ですが、実は歯科の観点から言うと、この上唇小帯が転んで切れることは「必ずしも悪いことばかりではない」のです。

先ほどご説明した通り、上唇小帯が長すぎたり太すぎたりする(上唇小帯付着異常といいます)と、それが邪魔をして上の前歯の間に隙間ができてしまう「すきっ歯(正中離開)」の原因になります。また、歯みがきがしにくく虫歯になりやすいというデメリットもあります。

そのため、通常は成長してもスジが長いままの場合、小学校に上がる前後にレーザーやメスで「スジを切る小さな手術」を行うことがあります。

つまり、転んでスジが切れたことによって、「将来の手術の手間が省けた」「自然にすきっ歯が治る可能性が高くなった」というケースも多々あるのです。傷口は口の中の粘膜なので非常に治りが早く、通常は縫わなくても1〜2週間で綺麗に治癒しますのでご安心ください。


当院の小児外傷への対応

医療法人櫻陽会 たなか歯科クリニックでは、急なケガでご来院されたお子様に対し、まずは恐怖心を和らげることを第一に対応いたします。無理やり押さえつけて治療するようなことはせず、傷口の状態や歯の揺れなどを優しくスピーディーに確認します。スジが切れただけであれば、お薬を塗って経過を見るだけで済むことがほとんどです。

一番心配な「歯の根っこ」や「その下に控えている永久歯の卵」への影響についても、必要な場合はレントゲンを撮影し、親御さんにしっかりと状況をご説明させていただきます。


結論:落ち着いて止血し、念のため歯医者でチェックを

お子様が口から血を流していると本当に焦ってしまいますが、上唇小帯の切れによる出血は、正しい「圧迫止血」を行えば必ず落ち着きます。

  1. 親御さんが落ち着く
  2. ガーゼで5〜10分間、しっかりと骨に向かって圧迫する
  3. 歯がグラグラしていないか確認する

この3つのステップをぜひ覚えておいてください。

「血は止まったけれど、歯の揺れが気になる」「傷口が化膿していないか診てほしい」といったご不安があれば、いつでもお気軽にご来院ください。

医療法人櫻陽会 たなか歯科クリニックは、お子様の健やかな成長と、親御さんの安心を全力でサポートいたします。

急なケガや、お口に関するご相談などお気軽にお問い合わせください。

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